TSUKI / Hotel in Tsukiji / 2019

Hotel in Tsukiji / 具体的で抽象的なもの

和紙のシワを転写した、薄く、紙のようなアルミ。
ひとつひとつ、丁寧に鋳造されたことを語る、ムラを残した素材感。
秩序とリズムをつくる、目地割と開口のコンポジション。
具体的で抽象的なファサードは、通りの空気を、少しだけ凛とさせる。

この「Hotei in Tsukiji」プロジェクトでは、チームに参画した段階ですでに躯体の建設が始まっており、私たちの役割はファサードとインテリアをデザインし直すことだった(新築の建物をリノベーションするようなイメージ)。なので、できることは限られていたものの、幸い正面の開口部の位置変更と、ファサードのデザイン提案は間に合うという状況だった。ホテルのインテリアは比較的考えやすいけど、ファサードのあり方については、何が正解かを見極めるのは正直不安があった。

日本の多くのホテルの外観は、窓の配置と形状からそれがホテルであり、窓の奥にベッドルームがあることが一目で分かるようにできていて、なんだか気持ち悪い。それに、経済性と機能性によって決まるポツ窓の採用は、あまりにも街並みに対して無頓着すぎやしないかと思う(驚いたことに、「ホテル窓」という名のポツ窓アルミサッシ商品まで販売されている)。どうしてもそこは変えたかった。

都市に建つホテルのファサード(立面)についてあれこれ考えてみて、すぐに思い浮かんだのが、ルツェルンにある「The Hotel / Jean Nouvel / (2000)」だった(今回のデザインを考える上でのリファレンスとしては、的外れなチョイスかもしれないが)。規則正しく並んだ窓の奥に見える天井面が、映像のように外部へ現われ、独特の構えと雰囲気をつくっている。もちろん天井に描かれたグラフィックは狭義にはファサードとは呼ばないけど、そのアピアランスに少なからぬ影響を与えているという意味では、ファサードの一部と考えても差し支えないだろう。インテリアとファサードのつくられ方が不可分なのも面白いし、なにより、通りから眺めても「建物用途はホテルである」と断定できないことが、機能主義に対する批評性を与え、通りの空気感も少し乱しているのが魅力的だ。レストランのようにも見えるし、小洒落たオフィスかもしれない。具体的な映画のシーンを引用したグラフィック手法を用いながら、抽象的でアノニマスな建築を実現しているところに、ホテル建築のファサードを考えるヒントを見つけた気がした。具体と抽象。用途や、機能を満たすこととは異なる次元で考えること。

それから、ファサードとインテリアのデザインは、ばらばらなものに見えないようにしたかった。都市に滞在する経験が連続したものになるように。自然と、プライベートな領域に入り込んでいけるように。そういう意味では、ホテルというより、現代の旅館をつくるようなイメージかもしれない。場所の歴史を読み地域の特徴を観察し、全体のデザインコードのようなものを探っていく。具体と抽象が行ったり来たりするように、物質感・ディテール・リズム・スケールといった要素を取り入れていくことにした。(190721_mh)

>>facade making movie