ROW HOUSE IN NASU / 2018

他者を受け入れる多義的なスケール

二つの世帯にまたがるように、大きな屋根を、無造作に架ける。
環境をつくる、おおらかな屋根下空間に、各々が居場所を見つける。

那須の豊かな自然環境の中に建つ、4世代7人のための住まいである。農家の広い敷地全体を居場所として感じられるように、平屋の建築をつくった。ひとつの敷地に多世代にわたる家族同士が一緒に住むということは、それだけ関係性が多様化することになる。親世帯と子世帯、祖父母と孫など、家族同士の関係だけでなく、近隣や職場や学校も含めて考えると、直接的・間接的に他者や社会との接点は当然ながら増えていく。いくつかの種類のコミュニティが同時に存在するという意味では、限られた人しか入れない場所であっても、ある種の公共性が現れる。ここではその状況を自然に受け入れられるように、住宅とも非住宅とも捉えられる、多義的なスケールを持つ建築をつくれないかと考えた。

多義的なスケールをどうつくるかという点については、形態操作以上に、気積と部材の選択による影響が大きいと考えている。この建築では、小さな屋根の単位で分節されたヴォリュームにまたがって架ける大きな屋根を、極力小さい断面で構成した。登り梁に継手の無い10メートルの製材を用いることで、断面を38×235mmに抑え、気積の大きさに対して構成する部材を身体的スケールに近づけつつ、少し軸をずらしてラフに架け、おおらかで柔らかい屋根下空間をつくった。プランはシンプルなn-LDKとしているが、必ず庭に面するように、諸室を雁行した配置にしていることと、北側と南側で軒の高さが大きく異なるため、場所によって建築の見え方や空間の感じ方は変化する。

核家族化が進む時代の中で、都市の小住宅や集合住宅の空間形式については数多く考えられてきたが、暮らし方や働き方に対する意識が既に変わりつつある今、2~3の少数世帯(必ずしも家族とは限らない)で構成される居住単位がつくる空間のあり方に可能性を感じている。住宅より広いスケールで個人の居場所をつくれるし、集合住宅とは異なり、積極的に参加可能な共用空間をつくることもできる。その際に個人の居場所と共用空間を別々の室として用意するよりも、多義的なスケールによって、それらが共存する空間をつくれるのではないかと考えている。
(新建築住宅特集2018年10月号掲載_mh)

  • 名称
    那須の長屋/Row house in Nasu
  • 用途
    2世帯住宅
  • 所在地
    那須塩原市, 栃木県
  • 設計
    針谷將史建築設計事務所/針谷將史 目﨑優人
  • 構造
    佐藤淳構造設計事務所/佐藤淳 三原悠子*(*元所員)
  • 照明
  • 施工
    分離発注
  • 敷地面積
    2,677.17㎡
  • 建築面積
    305.27㎡
  • 延床面積
    286.60㎡
  • 構造規模
    木造2階建て
  • 掲載
  • 撮影